子供のころ、夏休みの宿題か何かで宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の読書感想文を書いた記憶があります。
宮沢賢治の書く物語は短編が多く、1冊の本にいくつもの物語が入っていたので、あれこれ読んでいました。
小学校の国語の教科書でも見た覚えがあります。クラムボンはわらったよ、と(「やまなし」)。
あとは切ない「よだかの星」や「セロ弾きのゴーシュ」「虔十公園林」あたりが印象に残っています。
そんな宮澤賢治の出身地は岩手県の花巻です。この花巻に行くのが結構お気に入りで、以前取り上げた広島県の尾道市と同じく、独身時代に何度も通っていたのでした。
今回は、そんな花巻について書いてみます。
イーハトーブ・テーマパーク
賢治は故郷の花巻を「イーハトーブ」と呼びました。
花巻に行ってみると、花巻全体がイーハトーブというテーマパークのよう。
「観光地あるある」として、観光地はちょっとアピールを頑張りすぎて名物を全面的に押し出しすぎる傾向があるのですが、ここ花巻はさりげなくて、無理をしていない印象です。
宮澤賢治の資料館や賢治にまつわる建物はもちろん雰囲気があって良いのですが、道端や建物の脇に、賢治の物語に出てきそうな動物などがたたずんでおり。
花巻を見て回りながら、そういうものを探すのが楽しかったわけです。
学生時代から独身時代までの間、花巻にはまって何度も行きました。
岩手県は遠いのですが、思い立って弾丸で行く、というパターンばかりでした。東北新幹線で日帰りとか、夜行バスで花巻入りしてその日の新幹線で帰ったりとか。
(若気の至りです。)
たいていは東北新幹線の新花巻駅でレンタサイクルを借りて、自転車でひたすら花巻を走る、ということをしていました。
花巻は基本的には田園風景が広がっていて、晴れている日なら走っているだけで気持ちが良かったのです。
緑の中を
それでは、自転車を借りて行ってみましょう。今以上に文章が拙くて恐縮ですが、過去にやっていたメルマガで花巻のことを書いていたのを発掘してきました。
●何も考えずに、ふらっと出かけた日曜でした。
●朝一番の東北新幹線は空いていて、静かな駅にこまめに止まりつつ、終点の盛岡をひたすらひたすら、目指しています。のどかな東北の景色を、新幹線はスピードを上げて通り過ぎます。
●終点のひと駅前、新花巻の駅で降りました。観光案内所であれこれ聞いて、そばのお弁当屋さんで自転車を借ります。道を少し教えてもらい、ちょっと遠くまで行くことにしました。
●実は花巻、3度目なのです。それでも行ったことがない場所がいくつかあって、今回はそこに行ってみよう、と思っているのでした。
●「最初の信号を右に曲がって、2つ目の信号を右だからね」と聞いたのですが、その通りに行くと、広い道が狭くなり、あぜ道になり、最後には田んぼの真ん中に出てしまいました。
●ごつごつした道(?)を慎重に慎重に、自転車で進みます。すると大きな道が見えてきて、小さなお店が見えてきます。
●「農学校はどうやって行くんですか?」雑貨屋のおばあちゃんに聞くと、丁寧に教えてくれました。東北なまりが暖かい。
●「まっすぐ行った先のカーブの手前で横道に入って、トンネルの手前で右に曲がるんだよ」、そう聞いたのですが。
●今度は林の中に入ってしまい、また似たようなお店です。そこでまた「農学校はどうやって行くんですか?」今日の自分は、異様に方向音痴みたいです。
●青空と田園風景の中、そんな迷子なサイクリングを楽しみながら、ふらりふらり農学校を目指すのでした。
道の脇には、花が小さく、カラフルに咲いています。
●「こんにちは、寄っていってよ。」おじいさんに声をかけられます。見ると「花巻文化村」の看板があります。話を聞くと、版画家の方のアトリエ兼、旅人達の休憩所みたいです。
●ここでも懲りずに「農学校はどうやって行くんですか?」またまた親切に道を教えてもらい「後でここへも寄ってね」と言われ。
●さらにもう少し迷い、道端にいた牛に道を聞こうと思ったりしながら、ようやくたどり着きました。花巻農業高校。敷地内に、宮沢賢治が住んだ家「羅須地人協会」が建っているのです。ここに行きたかったんですね。
●学校に入って林に包まれた小川を渡り、開いていることを確認して(管理人さんがいない日は入れないそうです)、自転車を置いて、家に近づいてみました。
●入り口の脇には、賢治の書いた「下ノ畑ニ居リマス」の字が。部屋の中にはオルガンやら古い写真やらがあり、こじんまり。
●農学校を後にして、さっき立ち寄った「文化村」に戻ります。さすがにもう、迷いません。すぐに着きました。
●このアトリエ、庭に季節を問わずいろいろな花が咲き、隣の林にはタヌキが住むのだとか。
●庭の前の古い建物では、おそばを食べられます。さっそく上がって、ちょっと早い昼食に、ざるそばをいただきます。座布団の上で寝ていた猫が、けだるそうに向こうへ行ってしまいました。
●静かなジャズが家の中を流れます。時々カラスの鳴き声。版画家の先生のお弟子さんと、ちょっとしたお話をしたりして。
●いつまでもいたい場所でしたが、時間が少しずつなくなってきました。自転車に乗って文化村を後にします。また来ないと。そう思います。文化村の前はちいさな花巻空港で、模型のようなジェット機が、背中を向けて飛び立っていきました。
●北上川の「イギリス海岸」や宮沢賢治記念館を見て、2年前に来た時とちょっと変わったところもあるかな、と思いながら、汗をかいて自転車を走らせ、また新幹線の駅に戻ります。
●自転車を返すと「迷わず行けました?」お弁当屋のおばさんに聞かれます。「いやあ、迷っちゃいました」
「そうですか。」迷った、とか言いながら、楽しく道に迷っていたのはナイショです。
花巻には温泉も
さて、静かな温泉ブログに戻ります。そう、このブログは静かな温泉ブログなのを忘れてはいけません。
花巻に頻繁に行っていた当時はあまり温泉に関心がなかったので、花巻温泉郷へはまだ行ったことがなかったりします。
花巻に行った際に唯一行った温泉が「台温泉」。夜行バスで早朝に花巻入りした時に、朝風呂に入ったのでした。
花巻の北東にある花がきれいな山「早池峰山」(はやちね)に登った時も、下山した後に入ったお風呂は温泉じゃないお風呂でした。
今思えば、せっかくだし温泉宿に泊まって帰ってくればよかったな、と。
東北の温泉へはあまり行ったことのない自分ですが、いざ行くとやっぱり雰囲気がぐっと濃くて。気になるけれど、気になるだけでなかなか行けんのです。
近場の温泉旅を一度我慢すれば行けるのかもしれませんが、でもちょっくら遠いのだ。
信州や越後の、ちょっとした里山の近くにある集落や温泉地が、一部分、ほんの少しだけ花巻に似ているな、と時々気が付くことがあります。
もちろん、花巻の代わりというわけではないのですが、今の自分はそんな風景や温泉に会いに行くのが楽しみです。
でもいつかは行ってみたい、花巻の温泉なのでした。
さて、今度はどこへ行こうかな。